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2024.02.24

48年ぶりの五輪自力出場かけ ハンドボール女子唯一の学生日本代表 石川空選手が最終予選に挑む

 1976年モントリオール五輪を最後に、五輪の自力出場がないハンドボール女子(自国開催の2021年東京大会を除く)。代表唯一の現役学生の石川空選手(体育3年、大分鶴崎高校出身)が、ハンドボールのメジャースポーツ化を夢見て、4月の世界最終予選に挑みます。故安倍晋三元首相も苦しんだ国指定の難病「潰瘍性大腸炎」の治療を続け、パリへの道をめざします。

◆大学ではチームの要
 大阪体育大学ハンドボール部は、女子は2023年11月、全日本インカレ10連覇(11回目優勝)を達成し、男子もベスト4で過去10回優勝した強豪です。昨年12月の女子世界選手権では、代表メンバー20人中15人が大体大の卒業生か現役学生でした。
 そんな強豪チームで、石川選手は女子日本代表監督も兼務する楠本繁生監督の指示を選手に伝え、練習の扇の要となっています。
◆物おじしないレフティー
 石川選手は、小学3年からハンドボールを始めました。中学では、日本一を学校のクラブで2回、大分県選抜で1回達成しました。大分鶴崎高校に進み、U16、U18、U20で代表チームを経験。ハンドボールの逸材として、順調に実績を積み重ねました。
 自身のプレースタイルを「シュートバリュエーションが豊富で、上からもアンダースローからもシュートを打てる。仲間を生かすパスや視野を広く持ってプレーすることも自分の持ち味」と客観的に語ります。2022年9月、日韓定期戦で初めてフル代表に選出されました。楠本監督は石川選手の武器について、貴重なレフティー(左利き)であることとともに、大胆なプレー、物おじしない性格を挙げます。

◆アジア予選での悔い
 2023年8月、パリ五輪女子アジア予選決勝(広島市)。楠本監督は石川選手の、その図太さへの期待もあったのでしょう。勝った方が五輪切符をつかむ韓国との大一番の後半10分ごろ、競った場面でのペナルティスローで、石川選手を起用しました。
 しかし、石川選手はペナルティスローを外します。「大事な場面で起用されたが外してしまい、個人的にすごく反省している」と今も語ります。日本は同点でも五輪出場が決まりましたが、24―25で宿敵に敗れました。「普段は緊張しない性格だが、さすがにパリ予選では緊張していた」と楠本監督は振り返ります。
 雪辱の場は1カ月後のアジア大会(中国?杭州)。同じレフティーで大体大の先輩でもあるスターティングメンバ―の中山佳穂選手(北國銀行)が肩を痛めたため、決勝の韓国戦で先発しました。もう緊張などしませんでした。60分出場し、チームで2番目の4得点を挙げてアジア大会男女史上初の金メダルをつかみます。楠本監督が「石川にとって自信になった試合だ」と語る転機でした。

◆難病と向き合う
 石川は選手は、中学生の時、原因の分からない貧血、体調不良に苦しみました。
 長い期間、思うようなプレーができない。練習も十分にできない。トイレにこもりっきりの日々を送りました。やがて検査の結果、「潰瘍(かいよう)性大腸炎」と判明。大腸の粘膜に炎症が生じ、腹痛、下痢、下血、貧血などの症状が引き起こされる病気で、10万人に100人程度が発症し、故安倍元首相の辞任の理由にもなったとされる国指定の難病です。
 そんな重い病気だと判明した時の心境は、常にアグレッシブな石川選手らしさをうかがわせる。「原因が分かり、ちゃんと治療すればプレーができることが分かり、自分自身としてはうれしかった」
 石川選手は今、前向きに病と向き合っています。月に1回、自分で注射を2本打ちます。鉄分ジュースを、試合がある日のほか、貧血になりやすい朝などに飲みます。どうしても体調の波が激しく、調子がいい時と悪い時が出てしまいますが、下宿での一人暮らしの食事で、鉄分を多く摂り、脂っこいものを食べないなど調理に気を付けています。
 マスコミ各社から取材を受ける機会も増えました。病気について質問されることも多く、最初は「病気のことを打ち明けるのは、自分にとってマイナス面の話でもあり、勇気がいった」といいます。しかし、今は「同じ病気を抱えている人が、スポーツで活躍する姿を見て励みに感じ、頑張ろうと思ってもらえたらうれしい」と考えています。

テレビ局の取材を受ける


◆楠本「先生」とともに
 楠本監督ってどんな人? そう尋ねられ、石川選手は「うそをつかない人」と答えました。
「指導をする時にオブラートに包んで指摘してくれる方もみえますが、楠本先生は、その選手のためを思って厳しいことも言ってくれる。うそをつかないので、信頼感があります」。日本代表の選手たちはほぼ全員、楠本監督を「先生」と呼びます。

◆最終予選へ
 パリ五輪世界最終予選は4月11日から14日、ハンガリーで行われます。日本はスウェーデン、ハンガリー、カメルーンと同じ組になり、上位2カ国が五輪出場権を得ます。
 石川選手は、この最後の大一番は、ハンドボールがメジャーになるための重要なステップだと思っています。
 「空中の格闘技」とも言われるハンドボール。競技については「攻守の切り替えの激しさ。接触の激しさ。『走る?投げる?飛ぶ』の運動の3大要素が入っていて、そこが面白い」と感じています。北欧を中心に1試合で数万人が詰めかける人気がありますが、日本では国際大会での実績も人気も発展途上です。
「男子は36年ぶりの自力五輪出場を決めて、日本リーグでも人気が出始めている。女子も結果を残さないと、新しいファンがつかない。ハンドボールがメジャーになるために、世界最終予選で結果を出したい」
 世界最終予選直前の欧州遠征メンバー18人で、現役学生は石川選手だけ。最年少レフティーは閉ざされた五輪への扉をこじ開けるのでしょうか。

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